ローソン

2012/10/18

No Music, No Life. 音楽を愛する聴覚障害者たち


音楽は耳の聞こえる人たちだけのものではありません。

耳の聞こえない人たちだって、ちょっとした工夫や惜しまない努力で、いくらでも音楽を楽しめます。耳はムリでも、目や手や心で音楽を感じることは出来ます。

健聴の人達から見ると、耳の聞こえない人が音楽を聴くことなんて、不思議な光景なのかもしれません。答えは、基本的に、健聴者と同じように聴くことは不可能です。聴覚障害者の中には、特に聞こえの発達に関して、かなり幅が広く、個人差でそれぞれ違うので、聴く練習をマスターすれば、ある程度は聴ける人もいます。聴けない人はナイトクラブやディスコなどで、体に伝わる音の振動でリズムを感じ取り、想像しながら楽しんだりしています。また、音楽好きな人もいれば、音楽嫌いな人もいます。

発音を聞くトレーニングに慣れている聴覚障害者なら、誰でも可能だと思います。私の場合、曲の音程や、どの楽器の音色で鳴っているのか、区別することは出来ないのですが、歌詞なら、わかります。歌詞は見える言葉なので、歌詞の気持ちに共感することが出来ます。好きな歌詞を見つけたら、静かな所で、同じ曲を100回以上、聴くことに集中し、耳に覚えさせます。プチリリという歌詞アプリで読みながら、歌う時の癖、発音の動き、音のリズム、トーンの長さ、高音、低音をすべて暗記していきます。聴く練習を繰り返せば繰り返すほど、耳が自然と覚えてくるようになります。ただ、歌詞が見えていないと、どの辺を聴いているのか、ワンテンポが遅れたり、ズレてしまったり、わからなくなることもあるので、まだ難しいです。

15歳の時までは、音楽に興味を持てないほうでした。そんな私が音楽にハマるようになったのは、平井堅さんの『楽園』がきっかけでした。大晦日の紅白で、テレビを通して、初めて彼を見た時は「濃い顔をしているけど、ちょっとハンサムだな」という印象しか持っていなかったけれど、彼の歌を字幕で見た瞬間に、大きな衝撃を受けました。歌詞を通して、美しい世界がフワッと見えてきたのです。平井堅さんの歌声は美しく、重みがあり、そして、とても聴きやすくて、ただ、ただ、その歌声に感動した自分がいました。「これが音楽・・・。」歌で、こんなにも心を揺さぶられたのは生まれて初めてで、音楽という世界に触れたいと心からそう思えました。「もっと聴きたい!」と強く思った私は、兄がたまたま持っていた平井堅さんのCDを借りて、補聴器をつけている耳を大きいスピーカーにくっつけて、ボリュームをいっぱい上げて、CDジャケットの歌詞を見ながら、聴く練習を始めました。最初はなかなか聞き取れず、難しかったけれど、あきらめないで、何度も何度も聴いているうちに、発音の動きなどを覚えられるようになりました。それから、いろんな歌を積極的に聴けるようになって、今はプチリリ(歌詞アプリ)M-リンク(補聴器用のイヤフォン)のおかげで、大好きな音楽を思い切り楽しんでいます。平井堅さんの歌に出会えていなかったら、ここまで音楽の世界に触れていなかったと思います。 

音楽を愛する聴覚障害者たちは世界中にいます。

彼らは彼らなりに、『見える音楽』をより楽しむ方法を常に追求し、努力し、創り出し続けています。

聴覚障害者たちが『見える音楽』を楽しむ方法とは・・・。

YouTubeなどで文字や字幕が入っているアーティストのPVを常にチェックしています。文字や字幕があったほうがわかりやすいし、口の動きと文字を交互に見ながら楽しめます。







有名なロックバンドと手話がコラボした世界初のPVです。「聴覚障害者にも楽しんでもらおう!」と立ちあげられたプロジェクトで、ドイツの有名なロックバンドと聴覚障害者チームが手を組み、完成させました。上の部分にあるギター、ドラム、ベースの高さは目で『音』がわかるように表示させ、下の部分にある二つの丸い点を点滅させているのはリズムの音です。歌詞の字幕もついて、しかも、手話も見られます。こんなPVを待っていました。こういうPVをもっと増やしてほしいです!



プロデビューした歌手として活躍している聴覚障害者たちもいます。

Signmark - サインマーク (フィンランド人のろう者ラップ歌手)
世界で初めて、ろうのミュージシャンとして、レコード契約を結んだサインマーク去年の11月に被災者支援のためにフィンランドから来日して、宮城と東京で無料ライブを開催してくれました。


Sean Forbes - ショーン・フォーブス (アメリカ人のろう者ヒップホップ歌手)



中国の聴覚障害者芸術団による美しい千手観音の舞

 

SONY製品のCMです。世界的なコレオグラファー仲宗根梨乃さんは健聴者ですが、アヴリル・ラヴィーンの「What the hell」という曲に合わせて、感じるままに踊っています。彼女の独創的なリズミカルダンスと見える音の表現がマッチしていて、とてもわかりやすくて、心から楽しそうに踊っている姿がカッコイイです。また、CGを使って、音を表現しているところもスゴイです。


日本にも、『こころおと』という手話バンドがいます。2000年に結成された、ろう者と聴者の手話バンドです。手話と音楽で、健聴者と聴覚障害者を同時に楽しませようと、メンバーの全身から生みだすパフォーマンスを追求しているバンドです。曲はポップからバラード、そしてロックまで幅広い音楽性を持っており、ボーカルの歌声に合わせ、聴覚障害を持つメンバーが手話で歌詞を表現するところ(デフボーカル)が最大の魅力です。こころおとのリーダーは聴覚障害の両親を持つ聴者(コーダ)で、「手話」と「音楽」を結びつけた方です。現在は、歌手の藤田恵美さんやSPEEDの今井絵理子さんと共にライブ活動を続けています。ぜひ、一度、こころおとのライブで、生の手話音楽を体験してみてください。

あなたが聴覚障害を持つ友人に音楽の話題を遠慮しているのなら、その遠慮を今すぐゴミ箱に捨てて下さい。音楽を愛する聴覚障害者たちも、あなたと音楽の話題で盛り上がりたいと思っています。きっかけが見つからないだけです。彼らが音楽好きかどうか判断することは、なかなか難しいですよね。そういう時は「音楽は好きですか?」とストレートに聞いて下さい。どうしても聞きづらければ、彼らが、耳の後ろにイヤフォンをかけている時、沢山のCDを抱えている時、音楽雑誌を持っている時、twitterで「誰々の歌を聴いています」とか「有名なアーティストのライブに行ってきました!」とツイートされた時を見かけたら、「この人は音楽が好きなんだ」と単純に思えばOKです。あなたのほうから、「いちばん好きな歌は何?」とか「あの歌詞、めっちゃいいよね!」とか、音楽に関する話題を振ってみて下さい。また、見える音楽が重要なので、自分の好きな曲を歌詞アプリで見せたり、YouTubeなどで見つけた字幕や文字入りのPVを見せてあげることも良いと思います。きっかけを作り、共有することで、必ず、お互いの知らなかった音楽が発見できます。

Deaf people can say “No Music, No Life!” too.